マリッジブルー
篠原 隆司
24歳。6年前。
その頃から意識していたことがある。ぼんやりとだけど、それでも口に出していたし、逆に友人や知人から言われることもあった。
今月末で、私の勤務する会社はその業務の全てを停止する。
それにより一番困るのは顧客企業だ。弊社に預けられているサイトがある。
誰が面倒を見るのか?全てを放り投げてしまうのか?
今日、取引先であるお客様のところへ状況説明と今後について話をするために伺った。
私は軽い気持ちだった。急な話で、代わりの会社を探し紹介する時間もないため、紹介できる企業が見つかるまでの間、私個人が面倒みる旨を伝えるつもりだった。
なのに・・・勘違いしたのか、勢いなのか、同席した同僚は、「aultaのほうで面倒みます」と言ってしまった。
そして、それで構わないと言ってしまうお客様。
2件目のお客様のアポには時間があるため、同僚と私は別行動をすることにした。
私は、昔からお世話になっているある社長のもとに向かった。
社長は全てをお見通しだった。私が電話をした時から感付いていた。
1時間ほど話をした。いや一方的に話された。その言葉は私の背中を押すものだった。
ずっと口に出してきた言葉。
「会社を作る」
それが今、目の前まできている。
私が、「やる」と一本の電話を掛けるだけ。それだけで、全てが会社設立に向かって進んでいくことになる。
その瞬間はあまりにも唐突過ぎた。昨日まではまだ、ボンヤリとしていた。今のお客様を全て引き受けたとしても、それだけでは収入面でも厳しいものがある。だから私は躊躇していた。
それが今日、いきなり目の前に道が敷かれた。いや、たぶん私は無意識下ではそれを望んでいたのだろう。
だから同僚と別行動をしてまで社長に会いに行ったのだろう。そこへ行けば背中を押されることが分かっていたから。
今日1日の出来事は、今思い返せば全てが起業に向かっていた。
同僚は、私が「完全」に引き継ぐと伝えてしまった。
お客様は、私が引き継ぐことを快く受け入れてくれた。社長は背中を押してくれた。
ただし、先行きは暗い。楽観視なんてしていない。ものすごく不安のほうが大きい。
ずっと意識していたのに、あんなに言い続けてきたのに、いざ目の前にくると、いろいろ考え込んでしまう。
どうやら私は社長になるらしい。